文字(書)は絵の恋人
森は海の恋人」というフレーズを聞いたことがあるだろう、海と森は食物連鎖や自然環境の面で密接な関係にある事から命名されたと聞く。
日本美術にも絵画の構成要素が互いに密接な関係をもって絆を深めたジャンルがある、文字絵(*1)というジャンルだ。
文字絵は文字(書)と絵それぞれが絡み合い、響き合って絵画の魅了をさらに高めることができる、まさに「文字(書)は絵の恋人」である。
特に、やまと絵の世界で、葦手(あしで)という手法がちりばめられた作品は日本固有の絵画(絵画に限らないが)と言ってもいいのではないか。(*2)
クニオ
“やまと絵の特徴の一つとして文字(書)と絵の融合があげられるじゃないかな!”
ヨシコ
“文字絵というジャンルね! えーと 葦手っていう手法があったわね”
クニオ
“葦手か〜 葦手はパズルみたいに大人の知的好奇心をくすぐるよね” 10世紀末から11世紀前半に既存の和歌の歌意を描くという行為(歌絵)が活発化し,そうした歌絵は葦手(*3)と呼ばれる装飾的な文字を伴った遊戯的な側面も合わせて、時の貴族たちに享受され、以降の美術品に多くの影響を与えていった。(*4)
クニオ
“葦手って形の面白さを狙った大人の遊びっていうかな …… 知的遊戯性が魅了だよね”
ヨシコ
“そうね …… でもそれだけとは言えないわよ! 例えば、平家納経や久能寺経のように信仰に裏付けされた作品例もあるしね”
クニオ
“うーん そうか ” と少々落ち込むクニオ
ヨシコ
“でも大丈夫! 久能寺経などに描かれた葦手の意図は歌絵を表現しているし、知的遊戯性という遊び心の発露もあったんじゃないかな”
クニオ
“ (=¯▽¯=)V ”
ヨシコ
“それから時代を経るとね、教養を前提とした作品も出てくるわよ”
クニオ “フフッ ”
中世になると、葦手の手法はやまと絵的な風雅な趣向が色濃く表現された蒔絵などの漆工品の世界に受け継がれ(*2)、玄妙なる作品が数々登場する。
ヨシコ
“クニオさん〜どうぞ教養をが開陳ください! ご相伴にあずかるわよ ”
クニオ
“サンキュー (⌒∇⌒) 例えば、秋野蒔絵手箱(*6)は源英明の歌を連想せせる趣向で、教養を前提とした表現になっているよね”
ヨシコ
“和漢朗詠集の「夏の日 関して 暑さを 避ける」を知っていなければ、解けないってことね”
クニオ
“そういう事だね! それから春日山蒔絵硯箱(*7)はその格調高き精巧な蒔絵に藻を奪われがちだけど、文字に葦手の手法で隠されている “
ヨシコ
“古今和歌集ね ”
二人の会話はさらにいつ果てることなく……。
文字(書)と絵のコラボレーションと言っていい文字絵表現には、遊びの精神が投影された作品が多くある、日本の美術の奥深さを見る思いがする。
この遊び心、お洒落な感覚、観る者を楽しませる表現を可能にする葦手という手法、ストーリー性のある絵巻物と共に、やまと絵は現代の漫画に繋がっていると云ってもいいのではないか。
(*1)ここでは絵の中に文字を隠すタイプの絵画
(*2)日本美術の核心 矢島新 ちくま書房
(*3) 葦手は装飾文様の一種で文字を絵画的に変形して葦、水鳥、岩などになぞらえて書いたもの。
(*4)特別展 やまと絵-受け継がれる王朝の美 2023年
「やまと絵の成立と展開」 土屋貴裕
(*5)和漢朗詠集 巻下 太田切 伝藤原伊行(これゆき)筆 平安時代(11世紀)
藤原公任(きんよう)が選集した四季など題目に合わせて漢詩や和歌が収まられている、本作は幕末に掛川藩の太田家が所蔵していたので太田切と呼ぶ
(*6)埼玉・遠山美術館蔵 鎌倉時代(13〜14世紀)
(*7)東京・根津美術館蔵 重文 室町時代(15世紀)
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