吹き抜けのある食堂、上部の布は通風を視覚化し、光を柔らかく拡散する装置

日本に木造家屋が多い理由

日本は、古墳時代を経て、それに入れ変わる形で、明治に西洋文明を受容するまで、いかなる建築も木でしか作らないという自然性の強い、世界で唯一の「木の文明」(*1)を成立させました。

西洋文明を受容後も、住まいはほとんど木造でつくってきました。

その理由を三点あげてみましょう。

一つ目は、”日本=木の文明”の成立過程で、木が私たちの精神的基盤の形成に大きく寄与したからと考えられます。

 例えば万葉集では

真木柱まきばしら ほめて造れる 殿ごと いませ 母刀自ははとじ 面変わりせず」
                   「万葉集4342」(*2)

檜のような立派な柱で、ほめて建てた御殿のように、長く元気であってください母上 …

この歌は、家屋の新築に当たり、その家の長久や健康を母に重ねて願った歌です。古代人は木の家に住まう喜びを、母の無事に見立てたのです。

その思いは、私たちのDNAに刻まれてきました。
その内なるDNAに導かれて、無意識に木の家を求め、心の安寧を求めるという精神基盤がつくり上げられました。

・・・

二つ目は、日本で好まれる杉や桧などの針葉樹は、木の繊維が通っていて、まっすぐに割くことができる“加工のしやすさ”が挙げられます。

さらに、”日本=木の文明”の成立に関係しますが、私たちは特に、杉や桧の木理きめ(木目とも呼び、年輪など木材組織によって木材断面にできる模様)を好んできました。

・・・

三つ目は、経済的価値が高いこと。

鉄筋コンクリート造や鉄骨造に比べれば、確かに突出した特性はないかもしれません。

しかし、先人が培った知恵の体系に学んだ”木の家”は、

・ 丈夫で長寿命

・ 高い耐久性

・ 構造安定性

・ 美観性

に優れており、トータルで考えた時、鉄筋コンクリート造や鉄骨造に勝る経済的価値があるからこそ、日本人は“木の家”を選んでいるのではないでしょうか。

(*1) 木の文明の成立(上) 川添登 NHK ブックス

(*2)刀自(とじ)とは、家を支える女性=母のこと

(*3)柱が見えない建築物の壁をさしますが、壁の中に結露が発生し易いことが懸念されます。

木の雰囲気、香りなどが日本人に好まれるから

アジアモンスーンに位置する日本では、特に夏の高温多湿に悩まされてきました。
日本の各地に植生する常緑針葉樹林の「杉」や「ヒノキ」は、絶妙ともいえる調湿性でこの悩みを幾分か緩和し、高床式の構造、開放的な間取り、熱さ寒さを和らげる大きな屋根が、暮らしに潤いを与えてくれました。

木の木理きめ(木目)には、一年ごとの木の歴史が刻まれています。
同じく我々人間にも年輪があります。
それは精神の中に刻まれていて目にすることはできませんが、年輪はそれぞれの人の生きた証といえます。

ここに私たちは木理と共鳴し、木理を美しいと感じる心持ちが湧き上がるのだと思います。

木材を触ったり、木材の香りを嗅いだりすると、絹や綿などの自然素材の触感や香りを嗅いだ時と同じく、ストレス反応が生じないという実験結果も報告されています。
生理面でも緊張やストレスの緩和効果があることを肌で感じていたことも、香りを好む理由かもしれません。

また、木は適材適所に使えば劣化は穏やかで、その穏やかな経年変化はさらに時間が経つほどに、古びた味わいを醸し出す様を愛でる、「さび」や「わび」の美意識を生み出し、暮らしを演出してくれています。
これは時間の経過とともに、使えば使うほど汚くなっていくビニールクロスなどのプラスチックとは正反対な感覚です。

葺き根家のある居間

粘り強い家になるから

— 木の特性を活かすことで、地震のゆれなどをうまく逃すことができる。

建物の構造の安定性は材料とも密接に関連します。
もし木造で造ろうということならば、その材料である木の特性を知らなければ構造の安定性は望めません。

□木の特性と土壁・渡り腮構法

木は生物素材であるため、方向により性質が異なる異方性(*1)というやっかいな特性を持っており、この特性を使いこなすことが重要です。
さらに、木構造は木と木が接触する部分、いわゆる「接合部の耐力」で架構全体の耐力が決まってしまいます。
このことから、「接合部の構成」も重要なポイントとなります。

「時ノ寿木組みの家」が採用している土壁・渡り腮わたりあご構法は、木と木を組手くでと呼ばれる接合方法で組上げて、木材同士の面接触で直接に応力を伝達する「渡り腮わたりあごと呼ばれる木組みと、土壁と貫による総持ちそうもちと呼ばれる粘り強く復元力のある架構を合わせた構法で、木の特性を活かし、接合部の耐力を高める最善の構法だと考えています。

最近の応答解析技術の進歩により、地震に際して、建物の固有周期(*2)が長い特性を備え粘り強く復元力のある建物は、建物の強度を保ったまま変形する能力があり、エネルギーを吸収(ゆれをうまく逃がす)して地震に耐えられることが検証されています。

(*1)乾燥収縮、強度・ヤング係数に於いて、三方向に異なる性質を持つ特性。

(*2)木造建住宅の固有周期
最近の木造住宅  0.1~0.3 秒ほど
土壁などの木造住宅  0.3~0.5 秒ほど

古い寺院などが何百年も存在するように・・・
普遍的デザインとメンテナンスが、長寿命を保証する

なぜ神社仏閣は、何百年も存在し続けているのでしょうか?

もちろん建物を維持できる範囲で、折々にメンテナンスしているからですが、実際、築100年以上の古民家を解体修理すると、日本の大工のやっている士口・継手は古材を使う、修復する技術の体系だったんじゃないかと思えます。

その体系は、堅牢な骨組みと比較的短いスパンで更新するシステムが一体化しており、さらに木・土・藁といった普遍的な材料でつくられていて、いつでも何処ででも手に入れることができ、メンテナンスが容易にできる仕組みが備わっています。

メンテナンスフリーと言われるサイディングのような建材は、経年変化で汚く朽ちていき味わいも美しさもなく住まいを短命にします、一方、木のようにメンテナンスしなければ長持ちしない材料は、だから手を入れる、手を入れるからシステム全体は長持ちします、そうした材料は経年変化で深い味わいと美しさを見せてくれます。

住まいを貫く通り庭、日々の暮らしの中心となる。

涼しく、暖かい家になるから

— パッシブ的工夫 ~「生きてきたかたち」を手がかりに…

本来、日本の住まいは、その根っこに気候風土に根ざした、“暮らしの知恵”(パッシブ的工夫)が息づいていました。

深いのきで日差しを遮り、室内には土間をつくり風を誘う、北に設えた庭は風を呼び、室内に涼をいざなう、調湿性と防火性に優れ、容積比熱の大きい土は、大和天井やまとてんじょうなる輻射熱ふくしゃねつ冷暖房システムを備えた“省エネ住宅”をも生み出しました。

これでもかと大きな屋根とたっぷりのかやき、夏は直射日光を遮断し、冬には茅と茅の間に空気を蓄え保温する…茅葺きかやぶきの構造は、お百姓やきこりの着るみのと同じ、降り注いだ雨は茅につたわってするりと落ちる……これこそパッシブ的工夫の本質、気候風土に根ざした暮らしの知恵、生きているカタチなのだと思います。

 私たちが提案している「時ノ寿木組みの家」は、この生きているカタチ(古民家)に学び、省エネルギー性と快適性を、先ずはパッシブデザイン(*1)(*2) に求めたいと思っています。

立体通風、多面採光、日射遮蔽、日射取得と蓄熱と断熱で基本性能を確保し、深い軒、土壁、三和土で住まいを室礼しつらい(*3)して、視覚や皮膚感覚でも捉えることのできる、健康で快適な温熱環境(輻射熱の温熱環境)の住まいにしたいと考えています。

(*1) パッシブデザインとは、私たちの周りを包む、自然のエネルギーである日射熱、風、光を、暮らしに最大限活用・調整できるように住まいをしつらえ、快適な室内環境を確保しながら省エネルギーの住まいをデザインする手法を言います。パッシブデザインの基本は、日射熱利用、日射遮蔽、自然風利用(通風による排熱、体感温度下げる)、昼光利用、建物の断熱です。

(*2)最初、パッシブデザインで通風などの活用をうながし、「都市部など敷地条件などでパッシブデザインが有効でないとき」にエアコンなど機器を使用する設計。

(*3)室礼(しつらい):平安時代、客を招いての宴などの晴れの儀式の日に、寝殿造り住宅の母屋や庇に、屏風や几帳(きちょう)など調度を立てて室内を飾り整えたこと。現在の用語では、飾り付けること、設け整えること、装置の意。

未来にやさしいから

—「子どもたちからの“借り物”である」

ネイティブ・アメリカンのことわざ

「我々は、祖先から地球を継承するのではない。子供たちから借りているのだ」

という教えがあります。

彼らにとって地球と暮らしを支える恵みの大地は、”先祖から与えられたものでなく、あなたの子供があなたに貸し出したもの”なのです。

わたしたちも、先祖代々の土地や財産を荒らしたとき「ご先祖様に申し訳ないと」いいますが、ひょっとしたら、「子供たちに返せなくて申し訳ない」と考えるべきかもしれません。

住宅はいずれ解体されます。その時ゴミ(産業廃棄物)にしてはいけないのです。
なぜなら、壊される未来には存在するのは私でなく、子ども達やこれから生まれるあなただからです。子ども達や未来のあなたが、あなたに託した贈り物だからです。

あなたが過ごし、刻み込んだ記憶の詰まった住まいを、無残にゴミとして廃棄していいのでしょうか。

かつて、木造・木造建築をつくってきた技術は、本来、“修復する技術”、“ゴミにしない技術体系”だったんです。

古材を継ぎ、再利用を図る技術であり、現在のように簡単に解体廃棄しない技術観を持っていました。

現在の住宅生産の現場では、仕口しくち継手つぎての接合部は金物で緊結きんけつ、材料は合板、石膏ボード、ビニールクロス、サイディングなど石油由来の建材のかたまり、解体時には産廃となることが前提となってしまいました。

CO2排出の削減は、世界の最も重要な政策課題のひとつですが、削減は化石燃料を源とするエネルギーの削減とパラレルです。

先に挙げた木造住宅の工場生産を基本とした生産方法と工法は、CO2の排出を前提とした生産方法と工法と言うことになり矛盾があり、建設・解体というライフサイクル全体で見れば省エネではありません。

私たちは、住まいが、構造上・健康上安全であること、快適に長く住み続けられることの他に、再利用ができ未来にゴミを贈らないことも、住まいが満たすべき条件の一つだと思っています。

かつて日本の住まいは、地元の資源を使い、再利用可能な循環が組み込まれた構法であり、大工技術も修復する技術であったことを考えれば、土や藁を活用し、腐るのでメンテナンスが必要な(そのため長持ちするが)、誰もが笑顔になる構法でつくりたいと思いませんか。

わたしたちが提案している「時ノ寿木組みの家」は、工場生産の建材を極力使わない構法です、多少割高になりますが、「子どもたちからの“借り物”である住まい」として土壁・渡り腮構法の木組みの家を提案しています。